第21回 PDFを扱えるオンラインサービスの紹介(後編)
〜オンラインサービスの落とし穴に要注意〜

PDFをネット上のサービスで活用する際の注意点を探る

ネット上のサービスを利用する場合、生成されるPDFや画像といった生成物の品質は、そのサービスで使われているプログラムの品質・性能に依存します。特にPDFは一般のユーザーが内部のコードを直接見て判断することができないがゆえに、品質の良し悪しを判断することが非常に難しいといってよいでしょう。
今回は、前回ご紹介したPDF24というネットサービスで実際にPDFを加工した結果などを詳細に見ていきます。無償のネットサービスでも十分な品質があることを確認すると同時に、不具合についてもご紹介します。ネット上のサービスがどのように動いているのかを知ることで、サービスを利用する際の勘所が見えてくるでしょう。

PDFを画像化する

PDFのページ全体やその一部を流用したいと思ったことはないでしょうか。著作権の問題が無ければ、PDFの再利用は、業務の生産性を上げる方法として極めて有効でしょう。こういう場合の最もシンプルな方法は、PDFのページをJPEGなどの画像にして、その画像をWordなどの文書作成ツールに貼り込む方法でしょう。

図1 サンプルのPDF

それでは、図1(PDFXChangeEditor_document.pdf)のようなサンプルのPDFをPDF24で画像化してみましょう。

  • ●PDF24のホームページ「https://tools.pdf24.org/ja/」をブラウザで開きます。
  • ●図2の上から2番目中央の「PDFを画像に」をクリックします。
図2 PDF24のトップページ
  • ●画面にサンプルのPDFをドラッグ&ドロップして登録します。
  • ●図3の変換設定(今回は、画像の形式:JPG、画像の色の種類:カラー、1インチあたりのドット数(DPI):300、画質(品質):85)を確認します。
図3 PDF24の「PDFを画像に変換」の画面
  • ●希望の設定にした後、「イメージに変換する」ボタンをクリックします。
  • ●図4の画面が表示されたら、「ダウンロード」ボタンをクリックして、画像ファイルを手元のパソコンやスマホに保存します。
図4 「PDFを画像に変換」で画像ファイルをダウンロード

変換後、画像ファイル(図5)の一部を拡大したのが図6です。文字の輪郭部分が段々になっていますが、300dpiの設定なので、1つのブロックが1/300インチのドットになります。輪郭のドットがグレースケールになっているため、このままプリンターで印刷しても比較的綺麗な仕上がりです。

図5 PDF24の「PDFを画像に変換」でJPEGに変換
図6 JPEGの文字部分を拡大

比較のために、最も有名なAcrobat Proで画像化してみましょう。
なぜこのソフトウェアを比較に選んだかは、記事の最後にご紹介します。

  • ●Acrobat Proで画像化したいサンプルのPDFファイルを開きます。
  • ●図7のように「メニュー」から「PDFを書き出し」⇒「画像」⇒「JPEG」と選択します。
図7 Acrobat Proで「PDFを書き出し」を実行
  • ●「名前を付けて保存」ダイアログを表示しますので、「設定」ボタンをクリックします。
  • ●図8のように設定します。解像度は「118.11 ピクセル/cm」を選択します。インチに換算する(2.54倍する)と300dpiになります。
図8 JPEG保存の設定画面
  • ●「OK」ボタンをクリックし、「名前を付けて保存」ダイアログでファイル名を確認後、「保存」ボタンをクリックし、画像ファイルを手元のパソコンに保存します。

変換後、画像ファイル(図9)の一部を拡大したのが図10です。

図9 Acrobat Proの「PDFを書き出し」で出力したJPEG画像
図10 JPEG保存した画像の一部を拡大

文字の輪郭部分の段々は、1つのブロックがほぼ1/300インチになります。PDF24と違うのは輪郭のドットがグレースケールでなく、白黒がはっきりしている点です。このようなイメージを300dpiの画像として利用すると、ギザギザが目立ってしまい、印刷に使う文書の画像としてはあまり良い品質とはいえません。
「画像化」処理の結果は面白いことに、目的にもよりますが、PDF24の方がすぐれているように見えます。とりあえずパパっとPDFを画像化したいなら、PDF24などのネットサービスの利用がよいかもしれません。

PDFをWordに変換する

PDFをWordに変換して再利用できれば、いざという時に役立つのではないでしょうか。この変換機能も昔は高価な有料の製品でしかできませんでしたが、今ではPDF24をはじめとした無料のサービスで変換することができるようになってきました。
早速、PDF24で図11のようなサンプルのPDFをWordへ変換してみましょう。

図11 Wordで作成したサンプルのPDF
  • ●PDF24のホームページ「https://tools.pdf24.org/ja/」をブラウザで開きます。
  • ●図12の中から「PDFからWord」をクリックします。
図12 Wordで作成したサンプルのPDF
  • ●画面にサンプルのPDFをドラッグ&ドロップして登録します。
  • ●図13でモード設定(今回はレイアウト優先のBlocksに設定)を確認します。
図13「PDFをWordに変換」の画面にファイルを登録したところ
  • ●希望の設定にした後、「PDFに変換する」ボタン*1をクリックします。
  • ●図14の画面が表示されたら、「ダウンロード」ボタンをクリックして、画像ファイルを手元のパソコンやスマホに保存します。
図14「PDFをWordに変換」で変換したWordファイルをダウンロード

*1:2024年9月時点で「PDFに変換する」になっています。ボタン名は「Wordに変換する」とするのが正しく、Web制作時の誤記と思われます。

比較のために、 PDF-XChange EditorでもWord化してみましょう。

  • ●PDF-XChange EditorでWord化したいサンプルのPDFファイルを開きます。
  • ●図15のように「変換」タブから「MS-Wordで出力」を選択します。
図15 PDF-XChange Editorの「変換タブ」
  • ●図16のように「MS Word File」ダイアログを表示しますので、「レイアウト設定」が「ページレイアウトを保持」になっていることを確認して、「OK」ボタンをクリックします。
図16  PDF-XChange Editorの「MS Word File」設定ダイアログ
  • ●「ファイルを保存」ダイアログを表示しますので、「保存」ボタンをクリックして、任意のフォルダーにWord形式のファイルを保存します。

変換後、Wordファイルを開いて確認したのが図17 (オリジナルのWordファイル)、図18(PDF24でWord変換)、図19(PDF-Xchange EditorでWord変換)になります。
これらを見ると、まずレイアウトの再現方法の違いに気が付きます。

図17  オリジナルのWordファイル
図18  PDF24でWord変換
図19  PDF-XChange EditorでWord変換

PDF24はレイアウト優先の設定でBlocksを指定しているため、テキストボックスの中にすべての文字が配置されていますが、PDF-XChange Editorでは、レイアウト優先でありながらテキスト本文で文字の位置が再現されています。
改行の再現にも違いがあるのがわかります。PDFファイルには改行の情報は含まれていないことが多いため、PDFを分析して改行データを挿入する・しないの処理が製品の品質レベルの差になります。
PDF24はすべての行末に改行を挿入していますが、PDF-XChange Editorでは文書の流れを解析して、改行の不適切な挿入は1か所のみに抑えられています。
いずれの方法も、フォントの再現については課題があるようです。PDF-XChange Editorでは、手元のパソコンで使えるフォントがあれば、そのフォントを使ってWordを再現しようとしますが、完全ではないようです。PDF24ではサーバー上で機械的にWordに変換するしか方法がないため、ユーザーの環境で使えるフォントを使ってWordファイルを再現することは難しいと思われます。

それぞれの特性を理解して使い分ける

ネット上でPDFのサービスはまだまだ発展途上という感があります。しかし、サービス提供企業数は年ごとに増えており、サービスの内容もどんどん充実してきています。進歩著しいAIを使ったサービスも今後増えていくでしょう。
こうしたネットのサービスを利用する際、避けて通れない問題がフォントです。サーバー上(クラウド上)でのPDFの加工では、著作権の問題で、PDFに使われているフォントの再利用ができません。そのため、文字の挿入などで新しい文字を追加する際は、別のフォントに置き換わる現象が必ず発生します。そのため、フォントの形や字形が変わってしまうと問題になるような印刷用途のPDFは利用が難しいと思われます。ただ、それ以外の用途で、ページの差し替えなどフォントが変わらないような編集作業であれば、実用に耐えるサービスになってきているように思います。
それぞれの特性を理解した上で、ネットのサービスと手元のパソコンのソフトウェアを上手に使い分けできれば、PDFの活用の幅がグンと広がります。ネットのサービスをまだ使ったことがない方は、この機会にトライしてみてはいかがでしょうか。

業務でオンラインサービスを使う際の注意点

PDFを作成・編集することができるソフトウェアやオンラインサービスを選択する場合、様々なことを考慮する必要があります。最優先しないといけないのはPDFの品質です。その次がソフトウェアやオンラインサービスの操作性や利便性ということになるでしょう。
PDFを閲覧するだけなら、今見ているPDFの品質が良いのか悪いのか、そんなことを気にされる人は少ないと思いますが、PDFを提供する側はそうはいきません。品質が条件を満たさないPDFの場合、PDFを閲覧したり再利用したい時、PDFの表示が変わってしまったり、ほしい情報が取得できない事態になりかねません。
PDFの再編集や情報の再利用(不特定多数の方々が引用することを含む)を前提にPDFを作成しなければならない、あるいは十数年といった長期に保存することを前提にPDFを利活用する場合、PDFを作成した時のオリジナルのデータが存在しない・使えなくなっていることも多々あると思います。最低限の品質を保ったPDFを作っておかないと、そうした事態になったとしても後の祭りになってしまいます。

業務で使うソフトウェアやオンラインサービスを選ぶ基準

企業や団体では、最近はセキュリティなどの観点からその組織内で使用するパソコンやスマホ用のソフトウェアやオンラインサービスを限定する方向にあります。事前に動作確認をして、条件を満たす製品やサービスが選ばれ、それ以外は使えなくすることで、安全や品質を担保するという運用ルールです。
以下は、ソフトウェアやオンラインサービスを検討する際の参考にしてみてください。

●PDFの品質

  • 何がしたいのか、やりたいことの要件を満たしているか。
  • 専門家によるPDFの品質評価が必要かもしれません。

●製品やオンラインサービスの操作性・機能

  • 利用実績やセキュリティ対策は十分か。
  • 上記の問い合わせが可能かどうか、必要十分なコミュニケーションが取れるメーカーや代理店かどうかの確認が必須です。

●保守の有無や内容

  • 提供されるサポートが要件を満たしているか(不具合が見つかったら改善版を提供等)
  • 改善版提供の頻度やメーカーの関与具合は様々(支払う費用によっても異なるなど)で、事例・実績などを確認したり、事前の協議が欠かせません。

前半でご紹介したAcrobatによるPDFの画像化による文字の劣化は、まさかと思うような結果で、事前に十分な動作確認をしていても見逃してしまう可能性があります。有名なブランドであっても、業務によっては専門家の関与や、手間・コストをかけた事前の評価と、不具合などの調査や改善の可否などに答えてくれるサポートが不可欠です。
残念ながら、無償の製品やサービス(広告で賄うと謳っている製品なども)はここまでの対応を期待できませんし、有償の製品やサービスであっても、ユーザーへの寄り添い具合は千差万別だということも知っておくとよいでしょう。

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