第13回 電帳法とPDF ① ― 改正電子帳簿保存法とは?―

電子帳簿保存法の経緯を含めた概説

今から25年ほど前、パソコンがブームとなり、社会がデジタル化にまい進する中、平成10年度(1998年)税制改正の一環として、国税関係帳簿書類(後述)の電磁的記録等による保存制度が創設されました。
今は2023年。国税庁は今も「適正公平な課税を確保しつつ納税者等の帳簿保存に係る負担軽減を図る等の観点から」*1といってはばかりませんが、四半世紀を経てもなお、未だこの制度はまともに機能していないように見えます。
紆余曲折を経て、令和3年度(2021年)の税制改正に伴い、改正電子帳簿保存法が2022年1月から施行されました。
この改正が大きな転機となって、国税関係帳簿書類の総電子化の流れがいよいよ本格的に動き出したといってよいでしょう。

国税関係帳簿書類って何?

所得税法及び法人税法では、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書類の写しを保存する義務があります。所得税および法人税の保存義務者は、帳簿を備え付けてその取引を記録するとともに、その「帳簿」と取引等に関して作成または受領した「書類」を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません。
「帳簿」とは、総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳などを指し、「書類」は、例えば貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、請求書、領収書などを指しています。

国税関係帳簿書類って何?

国税関係帳簿書類は、国が税金を徴収する根拠となる書類、もっと下世話な言い方をすると、税務調査の際に調査官らの求めに応じて閲覧できるようにしておかなければならない帳簿や書類であり、すぐに探し出せることが求められ、当然のことながら嘘偽りのないことが求められます。この国税関係帳簿書類を電子化するわけですから、電子化されたデータにも同じことが求められることになります。
次にご紹介する電子帳簿保存法はまさにそのための法律といえます。

電子帳簿保存法って何?

電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、上記の国税関係帳簿書類の扱いにおいて、下記に関するルールが定められています。

電子帳簿保存法って何?

我々一般の社会人にとって特にルール③が重要です。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます。)および法人税に関わる何等かの電子取引を行った場合、一定の要件の下でその電子取引の取引情報を電磁的記録として保存することが義務化されるからです。
いまさらですが、「電子取引」とは取引情報の授受を電磁的方式により行う取引のことで、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)や、インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引等が含まれます。
これまでは、経理や営業の一部の方々以外にはあまり縁のない話だったのですが、後述するように、今回の電子帳簿保存法の改正は、納税に関わるほぼすべての日本人がこれらのルールを理解し、運用していくことが求められています。大げさに聞こえるかもしれませんが、今後、様々なところにこの影響が出てくると思われます。

2022年1月1日施行の主な内容

改正電子帳簿保存法が2022年1月から施行されました。
この改正では様々な要件が緩和されましたが、それ以外に、パラダイムシフトとも呼べるような大きな転換を我々に迫るものが盛り込まれました。
それが「電子取引を行った場合の取引情報」の電磁的記録の義務化です。
具体的にはPDFなどのファイルやメールで送られてきた見積書や請求書(電子取引の情報)は電子のまま保存しておかなければならず、紙に印刷したものは「国税関係書類」とは認めないことになってしまいました。 保存についても、改ざんできないようにした状態、あるいは修正した履歴が残る形で保存し、所定の条件で検索ができるようにしておくことが条件になりました。
この紙に印刷した証憑*2を国税関係書類として認めないというルールのいきなりの施行は、会計・経理の業界に激震をもたらしました。
施行までがあまりに急で、期日までに準備できない企業も多いと考えたのでしょう。
改正法が施行される直前の2021年12月に、令和4年度(2022年)税制改正大綱にて2024年までの2年間の猶予期間「宥恕措置」(ゆうじょそち)が設けられました。

2024年以降も紙に出力して保存が可能に!?

2024年までのはずだった「宥恕措置」ですが、令和5年度(2023年)税制大綱改正によって、「宥恕措置」の内容が電子帳簿保存法の本則に盛り込まれることになります。
令和5年度(2023年)税制大綱改正では、他にも、スキャナ―保存の要件の大幅緩和や電磁的記録の保存制度についての見直しなどが含まれています。
国税関係書類をスキャナで読み取って保存する際の解像度、階調、大きさ、及び入力者の情報等の要件が廃止されました。これ以前の要件はスキャンデータにこだわりを持っていた印象なのですが、今後は小さい文字が認識できるといった要件を満たしていればよく、既存の多くのツールが使えるようになります。詳細は今後明らかになると思われますが、タイムスタンプの要件緩和と同時に、スキャナ保存のハードルも大きく下がることになります。
また、2024年1月1日以降の取引のメール等で受け取った電磁的記録保存する請求書・領収書等について、次の要件を満たす事業者はそのデータを保存する際の検索要件の全てが不要となりました。

  • ・判定期間における売上高が5,000万円以下の事業者(現行1,000万円)
  • ・その電磁的記録の出力書面の提示、又は提出の求めに応じる準備をしている事業者

これにより零細な個人事業者や企業は電子保存の義務化から当面逃れられます。ただ、原則は電子取引データの電子保存は義務であり、他社との取引にも影響するので、できるだけ早く電子保存に対応することが求めらていると考えるべきでしょう。

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