第6回 PDFの表示を深堀り
どこでも同じ表示や印刷が可能なデータとは
画面表示や印刷に必要な情報をPDFファイルだけの情報で賄うことが果たして可能なのでしょうか。紙は非常に特殊な媒体(メディア)で、物理的に完全に独立しているため、単体で存在でき、そこに記載されている情報を人間は読み取って、内容を理解することができます
これと同じことを電子データで実現するには、実は様々なハードルがあります。第2回でご紹介したフォントもそのひとつです。フォントは基本的にパソコンやスマホなどのデバイス内に存在するため、それらが変わってしまうと同じ字形を再現できません。しかし、PDFはフォントの情報をPDF内に埋め込むことでこの課題を克服しました。
第1回でPDFには基本的に3種類のイメージで作られていると書きました。3つのイメージ全てに共通する大事な情報でありながら、紙とは根本的に異なる対策が必要なのが「色」です。
画面と印刷で同じ色を再現できるPDF
身近な例として光の三原色である「RGB」を考えてみましょう。Webの表示に使われるHTMLで文字の色を指定する際に「RGB」が使われます。その際に「R」の値を最大にして他を最小にすると結果は「赤」になりますね。ただ、作成者のあなたが画面で見た「赤」を、世界中のパソコン画面やプリンターで印刷されるイメージが同じ色の「赤」で再現される保証は実はありません。
この色の揺れに関する解決策をPDFは持っています。カラーマネジメントあるいはカラーマッチングともいわれる色の再現性技術についてはPDFがもっとも先進的だったと言って良いでしょう。
画面の色はRGBで表現されますが、印刷で使われるインキは基本は4色(CMYK)で色表現されます。こうした色を作り出す素材そのものが異なるふたつの世界で同じ色を表現するには色の絶対値が必要になります。PDFに色の基準を合わせる(絶対値に合わせる)仕組みがあるおかげで、印刷物の色をパソコンやスマホの画面で極めて近い色で再現することができるようになりました。
図面の極細線をPCの画面に表示する工夫
PDFは設計図面の電子データとして不動のものになっています。世界中でPDFの図面が流通し、図面データの長期保存にもPDFが使われています。
よく図面に使われる用紙サイズはA1(594 mm × 841 mm)やA0(841 mm × 1189 mm)といった非常に大きいページサイズですが、これらの図面に使われる線は非常に細い線で描かれています。プリンターなどで図面を印刷する場合は問題にならない細い線も、画面に表示するとなると途端に難題となります。
例えばA1サイズの大きな図面全体を画面で俯瞰しているときに、図面に書かれている0.2 mmの極細線を表示する場合のことを考えてみましょう。
パソコンのモニター(多くは1920 × 1080ピクセルのHD画質)にA1サイズを表示して、さらに細かな線を見落とさないよう描画する必要がありますが、A1サイズの図面全体を表示しながら、0.2 mmの線をどのように表示するかは、PDFを表示するリーダー(ビューア)の設計ポリシー(設計者の考え方)次第ということになります。
あるメーカーのPDFリーダーは0.2 mmの線1本なら非表示にし、別のメーカーのPDFリーダーでは線が存在する画面の1ピクセルを灰色にして線が存在する雰囲気を出すといった工夫をしたりと、対応が異なる(表示が変化する)ことがあり得ます。また、あるメーカーのPDFリーダーでは、図面専用の表示モードを持たせ、ユーザーに切り替えさせることで再現性を高める工夫をしています。
ただ、こうした工夫の話は画面の解像度がどんどん高くなっている近年では次第に過去の話になりつつあります。
一昔前は96 dpiといった低解像度のモニターが一般的でしたが、最近の4Kモニターでは解像度が300 dpiを超えるものが出てきています。人間は300 dpiを超えると画面のピクセルを識別できなくなると言われていますが、商業印刷の解像度も350 dpi程度なので、すでにモニターが印刷物の解像度に近づいてきていると言えるでしょう。あとはモニターのサイズが大きくなれば、紙と変わらないわけです。テレビのサイズがどんどん大きくなるのを見るにつれ、PDFを紙と同じようなサイズと品質で表示できるモニターが特別な存在ではなくなる日も近いと思われます。